薮内正幸氏(1940 - 2000年,大阪府生まれ)は,府立高等学校卒業後に上京.当時,企画されていた福音館版『動物図鑑』(未刊)の挿絵画家に抜擢される.絵の技法は独学だが,今泉吉典氏の指導の下で,科学博物館の骨格標本や剥製を徹底して模写したことが基礎にあるといわれている.この間に描かれた挿絵は,『鯨類・鰭脚類』(西脇昌治 1965),『世界哺乳類図説,単孔目・有袋目』(今泉吉典・小原秀雄 1966),『世界哺乳類図説,食虫目・皮翼目』(今泉吉典・小原秀雄 1966)に掲載された.『世界の動物,分類と飼育』(1977~1991,全10巻11冊)でも挿画を担当している.これらの挿画により日本における動物画の第一人者となる.その他,『どうぶつのおやこ』(1966)などの絵本や,『野や山にすむ動物たち-日本の哺乳類』(1991)などの絵本図鑑,『グリックの冒険』(斎藤惇夫1970)など多数の読み物に挿画を描いた.また「サントリー愛鳥キャンペーン」(1973)や「コウノトリ復活シンポジウム」(1994)にも大作のポスター等を提供した.作品数は総計1万点をこえる.日本哺乳類学会のカモシカのロゴ・マークの制作者であり,制作活動に最も油が乗っていた時期(1982~1983年)に,本学会の前身組織である日本哺乳動物学会会長に就任した西脇昌治氏より依頼されたものと推察される(三浦投稿中).2000年食道がんにより死去,享年60.
以上のように薮内氏は多大な功績を挙げられたが,哺乳類学の発展の観点からその功績を以下のようにまとめられる.
1) 日本哺乳類学会のロゴ・マークを制作した
2) 今泉吉典氏,小原秀雄氏,西脇昌治氏などの哺乳類学専門書に多数の挿画を提供した.
3) 古生物を含む哺乳類や鳥類の絵本やイラストなど多数制作し,幼児教育や社会教育,自然科学の普及と自然保護運動の発展に寄与した.
薮内正幸氏の正確,精緻,やさしさあふれる動物画は多くの方の心に残っているはずである.以上より,薮内氏の貢献について日本哺乳類学会功労賞にふさわしいと判断した.