2002年名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了.博士(農学).2005年より国立科学博物館動物研究部において研究員,2015年より脊椎動物研究グループ研究主幹.日本哺乳類学会では理事,代議員,英文誌編集委員会委員,種名・標本検討委員会委員,分類群名・標本検討委員会委員長,日本分類学会連合担当委員,広報・情報委員会委員,選挙管理委員会委員などを歴任.
川田氏は世界のモグラ科の分類体系の研究に精力的に取り組み,その整理・再構成を行ってきました.モグラ科は,地中に生息する種が多く,捕獲に専門技術が必要であることから,他の小型哺乳類より生物学的情報や標本の蓄積が少なく,分類体系の整理が遅れていました.川田氏は,分子系統学を専門とする研究者と連携しながらも,自身は細胞遺伝学的手法や骨格・皮革を用いた形態学に主眼をおき,モグラ科の系統分類学に関する多くの国際的成果を発表しました.染色体の観察には生きたサンプルが必要なため,精力的にモグラ類の生息する国内外のフィールドに赴き,生息環境の観察,生体の捕獲,染色体サンプルや標本の作成という独自の研究スタイルを構築しました.また,国内外の多数の博物館等でタイプ標本を含む多数の標本を観察することで,モグラ科の形態学,分類学に関する新知見の公表に寄与してきました.これまでに学術論文76編,普及誌等への執筆は250編を超え,その業績には目を見張るものがあります.特筆すべきものとして,台湾産ヤマジモグラMogera kanoana,ベトナム産ヒメドウナガモグラEuroscaptor subanuraの新種記載があげられます.また,クロスモグラE. klossiの亜種とされたマレーシア半島部集団を独立種マレーシアモグラE. malayanaとして再記載,アジア産モグラ科の多角的な形態比較をもとに日本産ミズラモグラに対して新属ミズラモグラ属Oreoscaptorの記載も行いました.国内ではエチゴモグラM. etigoを独自の核型を持つ独立種であることを再確認し,日本産モグラ科として8種を認めました.このほか,アルタイモグラTalpa altaicaの核型や歯数異常,コーカサス地方産モグラ類やデスマン類の形態学,北米と中国のヒミズ類の族分類をアジア産ヒミズ・ヒメヒミズ・シナヒミズのUrotrichiniと北米産アメリカヒミズのNeurotrichiniに再編,ベトナム産4種のモグラ類の生息状況と形態・核型変異,ミャンマー産アッサムモグラParascaptor leucuraの分類地位,等の研究業績をあげました.これらの世界的なモグラ科の系統分類学の成果は国際的にも高く評価され,地中性哺乳類の進化史や歴史動物地理学の解明にも寄与しました.