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伊澤雅子

 1954 年生まれ.琉球大学名誉教授および北九州市立自然史・歴史博物館館長。伊澤雅子氏は哺乳類を含む多様な野生動物の生態学的研究と保全に長年にわたり従事し,数々の研究プロジェクトを推進してきた.特に,小型ネコ科の社会システムにおいては,小さな漁村に生息するイエネコにおける餌場グループの発見など,世界的に注目される業績を残してきた.また,イリオモテヤマネコとツシマヤマネコの長期にわたるフィールド研究により,これら希少種の基礎生態と社会構造を明らかにした.

 また,野外調査が困難とされる島嶼に生息する哺乳類の基礎生態と保全生態研究を多数行い,それらの科学的な成果に基づき関係省庁への助言や保全政策の提言を積極的に行った.特に,イリオモテヤマネコやツシマヤマネコ,ダイトウオオコウモリ,オガサワラオオコウモリの保全には大きな貢献を果たした.イリオモテヤマネコの保護増殖事業で,本種の個体数が減少することなく保全が進んでいるのは,伊澤氏の貢献があってのことと言っても過言ではない.これらの保全活動が評価され,2018年には「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰を受賞した.現在は,自身も琉球列島における哺乳類研究を継続しつつ,沖縄生物学会の会長として,沖縄の生物に関わる人々の交流の場をつくり,研究の発展と人材育成に尽力している.

 さらに,伊澤氏は琉球大学では学生指導を通じて研究者の育成にも大きく貢献してきた.研究指導においては,学生の意思を尊重して我慢強く見守りながらも,機を見て適切な助言をすることで,数多くの学生に後に世界自然遺産に指定されることになるフィールドにおける貴重な研究の機会を与えてきた.多くの伊澤研究室の卒業生は,研究職や野生動物に関わる仕事に現在従事しており,さらに次の世代の人材育成にも関わっている.

 日本哺乳類学会においては,理事,和文誌編集委員長,広報・情報委員会委員長,レッドデータ作業部会委員などを歴任し,加えて,日本の哺乳類学の底上げや保護管理の現場と研究者の連携促進などに貢献してきた.2023年には哺乳類学会100周年記念沖縄大会の大会長として,学会員が次の100年に向かっての道筋や夢を語る場をつくり,記念すべき大会を盛会に収めた.このように,伊澤雅子会員は哺乳類学会の発展に大きく貢献した本賞に相応しい人物である.

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