本研究は,完新世における環境変動がアカネズミの個体群の拡大に与える影響を,遺伝学的手法により検討した論文である.著者らはデータベースおよび自ら収集したアカネズミの塩基配列を取得し,アカネズミ個体群の遺伝的分化や個体群拡大の時期を推定した.本研究は現在の日本の哺乳類の分布と遺伝的多様性の形成過程について古環境の変化に基づき最も確度の高いシナリオを丁寧な考察から導きだしており,高く評価できる.また,今後日本における他の哺乳類種の分布や遺伝的多様性の形成過程を検討するための一例として,今後の日本の哺乳類学への貢献が期待できる.