本研究は,日本固有のニホンリスと外来種のキタリス,クリハラリスを対象に,カシ・ナラ類の堅果の防御物質であるタンニン,および針葉樹の球果の防御物質であるテルペンに対する耐性について給餌実験により明らかにした研究である.実験の結果,2種の外来種はタンニンに高い耐性を示したことから,カシ・ナラ類のほとんどの堅果を利用できることを示唆した.一方で,ニホンリスのタンニン耐性は低かったものの,高いテルペン濃度の餌を消費することが出来ることが分かり,日本古来の更新世の針葉樹林環境に適応してきたことを示唆した.本研究では,給餌実験に供する餌成分について,防御物質の濃度だけでなく耐性に関わる脂質の量もコントロールしたうえで繰り返し実験を行うなど設計が綿密で,今後の類似研究の指針になると思われる.また,本論文の結果は,固有種が特異な環境に適応したという生物学的に新しい発見であり,また,外来種の分布拡大を餌資源の化学的性質から説明しうる応用上貴重な成果である.現在の環境において本種の保全のための好適環境の維持と,外来種の対策の指針や必要性について,本研究の結果から科学的根拠に基づいて提言していることは社会的に高い評価を受けることが期待される.