1994年東京大学大学院農学系研究科博士課程退学.北海道大学農学博士.森林総合研究所において研究員,主任研究員,グループ長,野生動物研究領域室長を経て,現在は野生動物研究領域 領域長.日本哺乳類学会では理事,代議員,英文誌編集委員長,編集幹事,編集委員などを歴任.
島田氏は,アカネズミ等を対象に,生理学・生態学的関心のもと,野ネズミと堅果の相互作用系において,堅果に含まれる被食防衛物質が野ネズミ類の生理と生態形質の決定に重要な役割を果たしていることを,室内実験と野外調査を見事に組み合わせることによって明らかにし,国際的に評価される研究成果をあげるとともに,哺乳類学に新しい研究領域を切り拓きました.
アカネズミと堅果(ミズナラ,コナラ)を用いた給餌実験において,堅果のみを与えて飼育するとアカネズミは急激に体重を落とし,甚だしい例では死亡してしまうこと;その体重減少と生存率の低下が堅果に含まれる被食防衛物資と関係があり,その原因物質がタンニンであること,を解明しました.そして,実験室での飼育実験をもとに,アカネズミが被食防衛物質に対抗するには,唾液タンパク質と腸内細菌を介した生理的活性が必要で,その生理活性が馴化によって誘導されることを明らかにしました.さらに実験室での研究成果をもとに,野外集団での研究が展開されました.アカネズミは生理的なタンニン耐性能力を持つためにコナラ属堅果を利用でき,豊作の翌年に個体数が増加すること,一方でタンニン耐性能力が不十分なエゾヤチネズミやヒメネズミでは堅果の豊凶に対して個体群生態学的な反応を示さないことを予測しました.これらの一連の研究は,堅果の豊凶と個体群動態という哺乳類学のこれまでの課題に新たな展開をもたらしました.島田氏の研究は,被食防衛物質を介した哺乳類と植物の相互作用や哺乳類の化学生態学において,きわめて影響力の大きい成果であり,新しい研究領域の開拓にもつながるものと評価することができます.
研究成果は国際的な学術雑誌に一連の研究論文として発表されています.それに加えて,研究成果を著書として一般にもわかりやすく説明していることは,後進の育成も含めた哺乳類学の振興につながるものと評価できます.また,島田氏は哺乳類学会においても日本哺乳類学会英文誌「Mammal Study」の編集に長年にわたって,編集委員長,編集幹事,編集委員としてたずさわり,同誌の国際的認知度を高めることにも大きく貢献しました.現在は理事および代議員として学会の運営でも大きな役割を果たしています.
以上のように島田氏の哺乳類学における国際的に評価される研究成果,哺乳類学および日本哺乳類学会の発展や国際性への貢献は著しいものであり,日本哺乳類学会賞の受賞候補者として推薦いたします.