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Endo et al. (2020)

 本論文は,外来種であるハクビシンが国内でどのように分布を拡大していったのかを遺伝学的手法により明らかにした研究であり,生態学的知見に加え,保全学としての外来種対策における情報をもたらした点で評価できる.ハクビシンの日本への移入時期や拡大経路が未だよくわかっていないが,著者らは日本各地および台湾から大量の試料を体系的に収集することで,日本に現存するハクビシン集団の移入の歴史を解析した.その結果,日本へのハクビシンの到達は1回ではなく,複数回の移入が強く疑われることを解明した点は非常に興味深く,さらに膨大な試料から導かれた結果を,先行研究の結果を丁寧に引用することで,詳細に考察することで,わかりやすくまとめられている点は論文としての完成度が高い.また,現在では各地に生息しているハクビシンの導入と拡大の歴史を明らかにすることは,これまでのハクビシンに関して不足してきた生物学としての情報を補うだけでなく,外来種としてのハクビシン管理のために重要な知見を提供すると考えられる.基礎科学としての遺伝解析を伴う分子系統学と,応用科学としての保全学の外来種管理とが融合した本研究は,これからの哺乳類学の発展を考えるうえで,模範となりうると考えられる.

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