受賞理由は以下の5点に要約される.
1)生物地理学的貢献:増田氏は,北海道のヒグマ個体群が地理的に対応する3つの系統グループがあることを発見するなど(Matsuhashi et al. 1999),多くの日本産哺乳類において(キツネ,タヌキ,テン,イタチ,ハクビシン,オコジョ,イイズナ,アナグマ,ニホンジカ等)数々の系統地理学的・生物地理学的新知見を発表してきた.このうち,Nagata et al. 1998は82回,Matsuhashi et al. 1999は78回,Ohdachi et al. 2001は 72回引用されるなど国際的に高く評価されており,Web of Science で確認できる論文数は130編(生物地理学的研究以外の論文も含む),総被引用回数は2100回を超えている.また,増田氏は,これらの新知見を空間的な視点ばかりでなく,時間的な変遷を取り入れて,統合的に理解しようとしており,新しい生物地理学を打ち立てようとしている(増田2017など).
2)分類学的貢献:増田氏は,日本の固有種とされていたイリオモテヤマネコがベンガルヤマネコの亜種であることを遺伝学的に示し,分類学的位置付けの変更に貢献した(Masuda et al. 1994; Masuda and Yoshida 1995).
3)文化人類学・考古学との学際的貢献:増田氏は,礼文島から出土したヒグマの古代骨の DNA を解析し,続縄文文化とオホーツク文化との交流を実証するなど(Masuda et al. 2001),文化人類学・考古学との学際的分野を切り拓くなど,古代 DNA分析研究の発展,哺乳類学の発展的拡張に貢献した.
4)哺乳類学の国際化への貢献:増田氏は,ロシア,タイ,台湾など多く国,地域の研究者との共同研究に取り組み,日本の哺乳類学の国際化に貢献した.
5)学会への貢献:増田氏は,これまでに英文誌の編集委員,編集幹事および編集委員長,和文誌の編集委員,種名・標本管理検討専門委員,デジタル情報委員会委員,そして奨励賞選考委員,代議員,理事などを務めた.また,増田氏が指導した学生は,哺乳類学会大会および “Mammal Study”,「哺乳類科学」で多くの研究成果を発表しており,学会の活性化に大いに貢献している.
以上のように,増田氏は,国際的に高く評価される一連のオリジナルな研究業績に加え,哺乳類の生物地理学に関する総説的な著作は,この分野の総合的な理解に大きく貢献している.また,増田氏は,学会の各種委員を務め,数多くのシンポジウム・自由集会の企画などを通して日本哺乳類学会の運営,活性化に大きな貢献が認められる.