1979年生まれ.2010年東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了.博士(理学).東京大学総合研究博物館マクロ先端研究発信グループ特任研究員,日本学術振興会特別研究員などを経て,現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科助教.日本哺乳類学会には2005年から会員となり,年次大会において口頭発表やポスター発表を行ってきたほか,企画シンポジウムや自由集会を企画するなど,学会活動に貢献してきた.2010年度には優秀ポスター賞を受賞した.
久保(尾崎)氏は,ニホンジカを主な対象として進化生態学的な視点から,各地集団から収集された600個体以上の頭骨標本をもとにした研究を行い,大臼歯の形態におよぼす摩耗と食性の影響を調べ,ニホンジカの種内においても大臼歯の形態進化が生じたことを明らかにした.またニホンジカの体サイズを比較し,ベルグマンの法則があてはまることや,環境要因の影響について解明した.島嶼化での選択圧と形態進化の関係についても進化生態学的な成果をあげ,さらには琉球列島の絶滅種リュウキュウジカの古生態学的研究にも取り組んでいる.これらの一連の成果は,形態学を基礎としながら,生態学,進化学,古生物学といった他分野と融合的に行われたことで国際的にも注目される研究となっている.
これらの研究成果は,23編の原著論文などとして,数多くが公表されている.生態学的情報をもった多数の標本をもとに新たな手法を用いた解析手法は,標本研究の新しいスタイルを提示するものとして評価できる.また,研究への取り組みは,「リサーチ ライフ バランス」のロールモデルとなっている.久保(尾崎)氏は,若手研究者として哺乳類学の分野で十分な成果をあげるとともに,今後の哺乳類学や形態学,進化学において,さらなる活躍が期待される.これまでの業績とその将来性は日本哺乳類学会奨励賞に値するものである.