1955年生まれ。北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授。受賞理由は以下の5点に要約され,哺乳類学における国際的にも評価される一連の研究業績と日本哺乳類学会および哺乳類学への大きな貢献が認められることである.
1)齊藤氏は,エゾヤチネズミの個体群動態について,大規模な野外実験柵を用いた長期的な実験的アプローチや,繁殖抑制やなわばりなどの個体間関係から解明し,特質すべき成果をあげてきた.また,遺伝的な手法をいち早く取り入れ,個体間の親子判定に基づく生活史や婚姻様式の解明,生涯繁殖成功の推定など,多くのブレークスルーとなる研究成果をあげた.これらは,国際学術雑誌に多数の学術論文として公表され,国際的に高い評価を得ている.
2)齊藤氏は1950年代から造林木食害への対策として林野庁が大規模に実施してきたエゾヤチネズミの発生予測データを用い,エゾヤチネズミの長期にわたる個体数変動を解析し,個体群動態の周期性,変動特性および密度依存性の地理的変異とその背後にある要因などを解明した.これらの長期モニタリングデータに基づく研究成果は,数々の優れた学術論文として公表され,個体群生態学および哺乳類学の進展に大きく寄与した.
3)エゾヤチネズミ1種を対象として,多角的手法により同種の理解を幅広い観点から深化させてきた齊藤氏の研究スタイルによる一連の研究成果が,個体群生態学にとどまらず生態学,哺乳類学,自然史学,進化生物学等の進展に大きく貢献してきたことは特筆すべきである.
4)齊藤氏は上記にあげたエゾヤチネズミにおける主要な研究業績にとどまらず,さらに哺乳類の個体群生態学や野生動物管理においても大きな貢献を果たした.これまでに100編以上の学術論文を国際学術雑誌に公表し,日本の哺乳類学の発展に大きく寄与した.
5)齊藤氏は研究に加えて,日本哺乳類学会の発展にも大きく寄与し,日本の哺乳類学の国際化に尽力された.国際的にも信頼が厚く,国際哺乳類学会連盟の副会長を約10年にわたりつとめた.日本哺乳類学会では評議員,理事,事務局長,国際交流委員長などをつとめたほか,英文誌編集委員長としてMammal Studyの充実と国際化に尽力された.また,第9回国際哺乳類学会は,齊藤氏を運営委員長として日本ではじめて開催された哺乳類の国際学会である.その関連事業として英文で出版され,日本産哺乳類に関する知見を世界に発信した「The Wild Mammals of Japan」の編纂への貢献も特筆すべきである.