CONTACT

K. Murase, R. Horie, M. Saito, M. Koganezawa, T. Sato and K. Kaji (2015) Integrating Analyses of Population Genetics and Space-Time Information for Wildlife Management: An Empirical Study on Japanese Wild Boar Populations.

 本論文は,栃木県のイノシシを対象に,個体群の遺伝構造を明らかにするとともに,生息地選好性の時空間的変異から将来の分布を予測し,保護管理に役立てようとしたものである.2010年に狩猟者から得られた成体72個体を用いて,マイクロサテライトDNAの変異を調べた結果,県西中部, 東部,北部の3つの亜個体群が認められた.また,1978年と2003年の「緑の国勢調査」による分布,ならびに2001~2009年の捕獲個体の分布から最も新しいと判断された北部亜個体群は,県外に由来することが分かった.そして,これら調査年の異なる分布調査をもとに,一般化線形モ デルを用いて生息地選好性を調べたところ,年により亜個体群ごとに異なることが明らかとなった.具体的に例を挙げれば,2001~2009年の西中部亜個体群では畑地を忌避していたが,最も古く生息密度の高い東部亜個体群では選好性が認められることから,西中部でも将来密度が高くなると畑地を選好することになり,農業被害が増加することが予測された.以上のように,本研究は,集団遺伝学と分布情報を最新の統計手法を用いて統合し, 野生動物管理に有益な情報を提供するという,社会的意義の高い新しい試みであり,今後目指すべき方向性を示すモデル研究と位置付けることができた.論文の構成,文章表現の質とも高く,日本哺乳類学会論文賞にふさわしい論文であると判断した.

トップ