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長谷川善和氏(日本列島2000万年の進化史―とくに日本産哺乳類化石に関する研究)

 長谷川善和先生が行ってきた研究は脊椎動物化石全般の研究で多岐にわたります.検索できた主な哺乳類関係論文だけでも38本を数えます.ここでは入手した哺乳類の別刷に限って主な論文の概略を述べることにいたします.
 1957年に葛生で発見された新属新種の食虫類化石を英文で記載されました.1958年には鹿間らと共著で山口県秋吉台地域から発見された中期更新世の化石哺乳類に関して記載されていますが,これが日本哺乳動物学雑誌の最初の論文となっています(哺乳動物学報を除く).1960年代には巨角鹿あるいはヘラジカの化石について記載するとともに,1970年代には小豆島で発見されたナウマンゾウの化石論文も登場します.1973 年,1980 年に琉球列島の古脊椎動物の分析を手がけられ,1979 年には「哺乳類科学」に日本産食肉類化石の概要について執筆されました.1988年には下北半島の更新世脊椎動物群集を分析されました.2004年にニホンオオカミ,2006年に化石種colobine monkeyを記載されました.2007年には大型baculum(陰茎骨)化石を鰭脚類のものと鑑定されていますが,現生のセイウチの2倍あり,種までは同定されておりません.2009年には栃木県産化石で初の関東地域発見のバイソンを報告されました.同じ2009年には宮古島で発掘された後期更新世とされるミヤコムカシネズミを現生種である奄美大島産のケナガネズミと比較検討を行なっておられます.鯨類の研究では1995年に日本産鯨類化石を論じられ,2003年にアカボウクジラ類,2004年にケトテリウム類化石や別の論文でヒゲクジラ類の進化を考察されています.2006年にマッコウクジラ類,2007年には後期中新世~前期鮮新世と考えられる地層からセミクジラ属の新種化石,2010年には鯨類Baleen Whaleを報告されました.2011年の論文によれば,縄文時代の標本や後期更新世~前期完新世産の化石を検討することによりオオヤマネコは最終氷期の頃,マンモス動物群の1 要素としてヘラジカやトナカイなどとともに日本列島へ渡来したと推測されています.
 このように日本列島における2000 万年来の哺乳類の主要化石の分析を手がけられ,その進化史を論じてこられました.2011 年の論文をみるまでもなく,現在も日本産哺乳類化石の研究と論文執筆を精力的に展開されており,その研究成果は日本哺乳類学会賞を授与するに値するものであります.
 長谷川善和先生(1930年生まれ)は横浜国立大学を卒業後,国立科学博物館地学研究部主任研究官を経て,1978年に横浜国立大学教授に着任,横浜国立大学停年後は1996年に開館した群馬県立自然史博物館の初代館長に就任し,現在は同名誉館長です.1998年には日本哺乳類学会富岡大会を大会長として開催されましたが,この日本哺乳類学会大会の参加者がはじめて350 名を越え,学会員および参加者が大きく増加する最初の大会でもありました.長谷川博士は恐竜博士として一般に知られていますが,恐竜化石だけでなく鳥類化石はじめ脊椎動物化石全般に関しての見識が深く,化石種の鑑定にいまも活躍されておられます.

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