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土屋公幸氏(野生小哺乳類の染色体・系統分類と実験動物化に関する研究)

 土屋先生は200 編以上の論文・著書を執筆されていますが,とくに①日本産哺乳類の染色体研究の集大成と染色体種分化に関する業績が大きいところです.さらに②野生哺乳類資源の調査,採集,飼育(実験動物化)に関する業績に加え,③剝製標本類の厖大な蓄積といった点を挙げることができます.
 ①は国立遺伝学研究所に異動され,細胞遺伝研究部の吉田俊秀部長の下で開花しました.特筆すべき成果は,日本産アカネズミが本州中部の富山–浜松を結ぶ帯で西に染色体数46と東に48が分布し,その接点地の浜松で染色体数47がみつかるものの,厳然と両染色体数の分布域が決まっていることを発見されたことであります.これは,実験室内では交配出来るものの野生下では隔離が生じている現象で,種分化を解明するモデルとなりうる研究であります.日本産野生哺乳類とりわけネズミ類と食虫類の染色体研究を精力的に展開され,日本だけでなく世界の食虫類の染色体に関して「食虫類染色体の数と形態」(スンクス,学会出版センター,東京,1985)にまとめられています.
 ②では国内はもとより,海外学術調査をみると20回30カ国以上に渡航され,扱った哺乳類は70種以上になります.また海外の研究者との交流も多く,国際的にも活躍されてきました.飼育した野生動物種は;モルモット類3種,アメリカネズミ類3種,ハムスター類9種,ハタ・ヤチネズミ類10種,アカネズミ類8種,クマネズミ類10種,スナネズミ類5種,トゲネズミ類3種,ハツカネズミ類6種,カヤネズミなど2 種,ヤマネ類3種などで,疾患モデルのような有用な実験動物として開発された系統もあります.これらの動物は自ら研究されるだけでなく快く分与され,多くの研究者の業績に反映されております.
 ③は既に学生時代から実践され始め,国立科学博物館時代には今泉吉典先生の下で本格的に標本作製にたずさわられ,その後も一貫して蓄積に務めてこられました.それらの標本は多くの研究に利用されていますが,今後も貴重な研究資源になることでしょう.また東京農業大学時代には一般の方々にも剝製作製の講習をされ,普及に努めておられます.派手ではありませんがこうした地道な仕事も哺乳類学への貢献と考えることができるものです.
 土屋先生は東京農業大学を1964年に卒業され,東京農業大学,伊豆シャボテン公園,国立科学博物館,国立遺伝学研究所に勤務され,その後,北海道立衛生研究所研究員,宮崎医科大学附属動物実験施設助教授,東京農業大学教授を歴任されています.2004年には日本哺乳類学会大会長として,台風来襲という中で盛大な大会を開催されております.剝製の作り方,染色体研究,種の同定,野生動物の飼育法,に関して,現在活躍している研究者だけでなく多くの方がお世話になっています.また野生動物のみならず実験動物化された種の分与も厖大な数になっています.土屋先生の経歴や論文および広い交友関係の一端は,2006年3月発行のANIMATE特別号「日本産野生動物の生態および遺伝学的位置づけと生物医学への応用」に紹介されています.東京農業大学定年後も(株)応用生物の特別研究員として,執筆や監修,標本の整理に力を尽くされているとお聞きしています.より広い視野から永久に残る研究基盤をつくり支え,日本の哺乳類学に多大な貢献をされ,日本哺乳類学会賞授与に値する貢献をされています.また奥様は土屋先生が海外出張に出かけられた時は厖大な飼育動物の世話を中心になってなされ,また学生の面倒も親身になってみられたとお聞きしています.ますますのご多幸をお祈りします.

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